トレーナー、セラピスト関係の方から起業について質問を受けることがとても多いです。
今日はその独立・起業について少し。まず当たり前の話なのですが、その当たり前があまり認識されていないようなのでそれについて書こうと思います。
それは、それぞれのスタート地点は違う、ということ。それではどのような違いがあるのか見ていきましょう。
起業時における5つの違い
いくつも挙げられるとは思うのですが、とりあえずパッと思いつくものを5つ。
その1:知識・経験の違い
まず、おそらくほとんどの人は、専門性を持っていて、それをベースにして独立をされるのだと思います。
僕もそうでした。もともとアスレティックトレーナーとしてスポーツ現場で怪我やリハビリなどに従事し、そこからロルフィング®に行き着いて、日本に帰国してからはオフィスを開き現在に至っています。
何かのサービスを提供するということは、誰かが必要としているものを提供することですから、自分自身がそのスキルを持っているということが取っ掛かりとなることは多いでしょう。そのため、その専門性や経験値がスタート時点から高ければ、多くの問題解決に従事できる可能性があります。
〔これが後々の足かせになる人も少なくありませんが、、、専門性の高い職人であれば独立がうまくいくというわけではありません。職人が職人でいられるのは雇われているからの一面があります。これについてはそのうち、、、〕
学校を卒業してすぐに独立・開業する人と、10年その道で仕事をしてきた人とでは、当然ながら取り組める内容が異なります。
それは非言語的な部分で「あ、この人は自分のしていることに自信を持っていそうだな」と相手にもしっかりと伝わりますから経験がまったくないAさんと、経験豊富なBさんであれば何も言わなくてもBさんを選ぶ人の方が多いでしょう。
しかしこれは、経験がないから起業できないということを言っているわけではありません。経験がある人とない人とでは、アプローチするべきことが違うよね、ということです。
多くの場合先人に追いつこうと頑張る人が多いと思いますが、そもそもそこが間違いの始まりだったりします。先人はすでに経験をたくさん積んでいる中で起業して、さらにその上のステージにいるのですからいきなりそれを真似してもうまくいくわけがありません。
先は見据えながらも、等身大の自分のはじめの一歩はどこからか、が大切になります。
その2;年齢の違い
これは業種にもよると思いますが、若い人が好まれるものと年齢を重ねている人が好まれるものとあると思います。
自分が行っているような、身体に関わる仕事の場合、フィットネスなどでガンガンとにかく身体を爽快に動かす、という類のものでは若さあふれる感じの人が好まれます。
逆にセラピーや治療のようなものであれば、年齢を重ね少し風格がある人の方が安心感を与えます。
ロルフィング®に関して言えば創始者のDr.Ida Rolfは当初25歳以下の人にはロルフィングを学ばせなかった、といいます。ある程度の人生経験を積んでいなければ人の身体に深いレベルで関わっていくことはできないというのがその理由だったと聞きます。
自分自身の年齢や提供しているサービスによっては、ターゲットになる層が自然と20代で開業する人と、40代で開業する人とでは異なる可能性がある、ということ。
また、年齢を重ねていると人生経験も豊富なわけですから、そこで培われた人脈やネットワークというものが存在しています。そのため、20代前半の人よりも40代の人の方が金銭的にも余裕をもっている人が周りにも多いですからスタートからアプローチしやすい部分はあるでしょう。
もちろんこれも何を扱うかによりますが、特に具体的なプランがなくてもある程度うまくいく確率は年齢を重ねている人の方が高いといえるのではないでしょうか。となると若い人はその若さを活かしてフットワーク軽く、そして戦略的に動いていく必要があると言えるでしょう。(もちろんこれは幾つになっても同じなのですが)
その3:家族構成・環境の違い
自分自身が、独身なのか、既婚なのか。既婚であれば共働きなのか、自分が家計を支えているのか、それとも家計は支えてもらっているから自分はさほど稼がなくてよいのか、また子供はいるのかなどによっても、仕事にかける熱というものが無意識のレベルで変わってきます。
家計を背負っている人と、お小遣い稼ぎができればいいや、と思っている人とでは当然見ている場所が変わってくるので、同じような目線で話をすることはできません。
少し内容はかわりますが、陸上競技で活躍された為末さんが書かれている「似た価値観の人が集まる」ということも関連してくると思います。
また、自分のオフィスを構えているのか、要はランニングコストがかかる状態かどうか、ということも大きな姿勢の違いを生み出します。特にセラピストの方々にとってはオフィスを借りるか、レンタルオフィスで行くか、は一つの大きな決断ではないでしょうか。
個人的には、自分がその仕事で身を立てていきたいのであれば早くオフィスを借りることを勧めています。自分の場を持つ、ということはそれだけより真剣に違うレベルで取り組むことになります。現実問題毎月かかる経費が出てきますから。
人は切羽詰まってはじめて動き出せるもの(試験勉強もギリギリで始めていませんでしたか?笑)。切羽詰まる、ということはそれだけ具体的に行動をとり始めるということ。そしてその具体性には成果を求めるようになるのでその積み重ねは大きな違いを生み出していきます。
業種によってはオフィスを必要としない形態もあると思うので、そういったケースでは似たような事柄をご自身の業界のなかで探し、比較検討してみてもらえたらいいと思います。
その4:金銭的余裕の違い
これも年齢と関係してくるところはありますが、学校を卒業してすぐに独立・開業をするのと、40代まで勤めに出てそこから独立開業をするのでは、金銭的余裕が違うということもあるでしょう。
開業資金をどこから調達するのか、(借り入れるのか、自分で全て用意するのか、親族から借りるのか)ということでも変わりはでてくるでしょうし、年齢は関係なくもともと裕福な家庭環境の人であれば援助を受けて、ということもあるでしょう。
40代まで勤めていれば貯金や退職金もある程度の額があるでしょう。
起業することは、税務署に紙切れ一枚提出すればできてしまうので非常に簡単です。大切なのはその後のキャッシュフローが滞らないこと。いきなり万事うまくいくのが理想ですが、最初はなかなかうまくいかない時期もありますから、金銭的余裕があるにこしたことはありません。
その5:ゴールの違い
本来はどのようなことであれ「個人『事業』主」という形をとっているのであれば、お客様に対して何が還元できるか、ということを考える部分では変わりはないのですが、置かれている環境によって向き合う度合いはみな変わってくると思うので、自分自身の向かう先はどこなのかを自分自身がしっかりと認識している必要があると思います。
個人事業主を例にしましたが、それこそ個人事業主としてやっている人と、株式会社や合同会社をたちあげている人とでは見ている世界が違います。だから同じ目線で話をすることができません。
みんながみんな、株式会社や合同会社を立ち上げなければいけない、というわけではありません。個人事業主でいることもとても意味があることです。
まわりがどう、ということではなく、自分自身がどこに向かっていきたいのか、目指しているものは何なのか。そこの部分は早い段階からしっかりと認識をしておくに越したことはありません。
その部分がはっきりしていれば、先々苦しい時間はあっても迷うことはないはずですから。
まとめ
以前にもブログで書きましたが、個人的には他の業界はわかりませんが、僕が関わっている身体に関わる業界で、いちセラピスト・トレーナーとしての活動がある中での独立・開業は焦る必要はないと思っています。
これは業界によって全く異なるでしょうし、例えばIT系であれば高校生の時点でプログラミングが行えれば仕事はいくらでも作れるわけですから、高校生から起業でもいいと思います。というよりもそういう時代はすでにやってきています。
知識や経験があれば、専門性が高ければ独立がうまくいく、というものでもありません。(専門性が必要ないと言っているわけではありません)年齢を重ねているからうまくいく、というものでもありません。状況や環境は人それぞれ。
だからあの人はああやってうまくいっているから、ということが自分にもあてはまるか、というとそうではない、ということ。ある程度の原理原則というものは存在しますが、自分が向かいたい先が見えていなければ船は出発することができません。
すでに独立開業している人はもちろん、これから自分の道を拓いていこうと思っている人の何か参考や考えるひとつのきっかけになったなら、と思います。
それではまた
森部高史