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今や知らない人はいないと思われる大谷翔平さん。
高校を卒業後、日本ハムファイターズに入団し、今年からはその活動の場をメジャーリーグのエンゼルスに移しました。
日本球界でも類を見ない二刀流(投手と打者としての出場)で活躍していた大谷さんですが、メジャー1年目の今年もその存在感を投手としても打者としてもいかんなく発揮しているという印象で、まだ23歳。
これからの活躍をさらに期待させてくれる大谷翔平さんですが、どのようにしてこれほどの選手に成長したのか。
その彼を支えてきた大人たちと彼との会話を交え、スポーツライターの佐々木さんが、長年の取材をもとに書き上げた一冊です。
アメリカ行きの際にも米大リーグの新労使協定で海外選手獲得に伴う契約金制限の適用年齢が従来の23歳未満から25歳未満に引き上げられたことにより、もう少し待てばより多額の契約金と年俸契約の可能性も高かったにもかかわらず
「お金ではない」
ということで挑戦をしたことも話題になりました。
野球選手としてすでにその存在感を大いに示している大谷翔平さんはいったいどのようにして成長していったのか。
人は環境でつくられる、ということがよくわかる一冊。子育て中や子供に関わるお仕事をしている人にはヒントが。
序盤の章では、大谷翔平さんという一人の野球選手、というよりも一人の人間を育てていく上でどういった考えを持ち、関わり方をする大人が彼の周りにいたのか、について書かれています。
ご両親をはじめとする家族、高校時代の監督、日ハム時代の監督、そういった方々のインタビューや言葉が多く掲載。
現在の活躍には、彼自身の考え方や行動力、そして結果を形にするための実行力があるからということは間違いないのですが、その行動にうつす原点は彼の周りにいた大人たちがきちんと育んできたからこそのこと、というのがよくわかります。
長い時間をかけ、本人たちからの言葉をもとに書かれていることからも著者の大谷翔平さんという一人の人間に対しての尊敬にも似た敬意を感じます。
経営者目線を持っているひとにはおすすめ!
子育てや子供に関わるお仕事をされている方、指導者の方にもおすすめなのですが、経営者の方・経営者の視点を持ってお仕事をされている方には強くおすすめします。
その理由のひとつが高校時代の監督のあるエピソード。
監督として招聘されていたにもかかわらず、結果が出せなかった一年目。
その時先輩に「野球のことばかり勉強しているからだ」、ということで経営の勉強をするように言われ、素直にその助言に従うことで多くの発見があり現在の指導方法につながる様子が描かれています。
庭師がなぜ休憩をとるのか
この視点を人の上にたつものが持てるかどうかで組織というのは大きくかわってくることでしょう。この部分だけでも1500円の価値はあったと僕は思っています。
残念だったこと2点
読んでいて少し残念に感じたことも追記しておきます。
著者の最も伝えたいことと対象がわからない
著者は時間をかけてしっかりと大谷さんを取材してきた様子が見て取れます。そして愛情や尊敬の念を持っていることも文章から伝わってきます。
ただ、時にその想いが強くですぎていて、まどろっこしく感じるところも。
その理由は、誰に対して伝えようとしているのかが明確ではないのではないか、ということ。
冒頭に「こういった方たちに」ということは書いてあるのですが、ちょっと範囲を広げすぎてしまったために誰にでも理解される文章を目指してしまったようにも感じました。
プロのアスレティックトレーナー(ATC)として気になる怪我に関する記述
場所や環境はことなりますが、現在彼が活躍するアメリカのスポーツ界でATCとして働いてきたものとして感じたことも一点。
大谷選手は決して怪我なくここまで来たわけではありません。
むしろ、重要な局面で怪我をしてきたといっても良いと思います。
メジャーリーグに挑戦するという直前にも手術をしています。
ただし、それは決してよくある根性練のように無理やり体を酷使されてきたという結果ではありません。
実情を知るわけではないですが、高校やプロに入ってからの指導者の方たちは、怪我をさせないように細心の注意を払ってきていたことが文中からは感じられます。
大谷選手が高校の時、レントゲンを取り骨端線が残っている(骨がまだ成長過程である)ことから、登板機会を減らしたりという有名な話も掲載されています。
細心の注意を払ったところで怪我をしてしまうときには起こってしまうものです。
ただ、そう書かれているわけではないのですが、「怪我をしても最終的に帳尻が合わせれば良い」というように感じてしまう指導者も出てくるのかな、と危惧しています。
大谷さん自身が発している怪我に関するコメントも掲載されています。
やはり、怪我をしている時は苦しいもの。
無理やり酷使して虐待とも言える夏の炎天下での何百球という投球や連続登板が美談とされてしまうレベルの低い日本のスポーツジャーナリズムに比べると、決して美談にされているわけではないことは好感を持てました。
ただ、人は都合の良いように解釈するもの。
「大谷ですら、怪我をするくらい練習をしているんだ!」となってしまう理解力の低い指導者もでてきてしまうのだろうなぁ、、、と思ったのが率直なところです。
高校時代にお世話になっていたトレーナーの方を「先生」と記述されていたのも、治療家とトレーナーの区分がされていない日本の現状を物語っていました。
読む人を選ぶ本。経営者目線を持っている指導者、トレーナーにはおすすめ。
野球選手にフォーカスしているものなので、当たり前といえば当たり前なのですが、野球の描写が多くあります。
いわゆる、「あの時の1球」というようなものです。
ただ、これって野球に精通している人や彼の大ファンというわけでなければ何度も登場すると「お腹いっぱい、、、」と感じてしまうものかな、と。
僕自身中学まで野球をしていて、仕事でも野球に関わることをしていましたが、それでもちょっと、、、と感じてしまうところがありました。
重要だということもわかるんですけどね。。。
子育てに対するヒントや人を育てるという事に関してのヒントもたくさんありますがそれだけを拾おうとするとちょっと野球色が強いので、読む人を選ぶかな、というのが率直な感想。
著者が最もつたえたいことが
・大谷さんを育んできた環境について言及したいのか
・大谷さんの周りを支えてきた大人の人たちの考えと行動を紹介したいのか
・大谷さんの野球選手としての素晴らしさを伝えたいのか
・大谷さんの人間性を伝えたいのか
要はその全て、ではあるのですがもっと絞っているほうが結果的に多くの人に読みやすいものになったような気がします。
とはいえ、1時間程度で読み終わっているのでさらっと読めるということは、トータルとしては読みやすいと言えると思いますし、同時に何度も見返したい言葉も散りばめられていることは間違いないです。
これだけのことを23歳でやってきた大谷翔平選手はやっぱりすごい!
著者が最も伝えたかったことはなにかについての正解はわからないですが、大谷翔平さんという一人の人間の素晴らしさが伝わってきました。
若干23歳でこれだけのことをやりとげ、10代の頃からそこにつながるプロセスのための考えや行動を起こしてきていたということは驚きの一言。
また、彼の人間性が随所に伝わってくるので、いつかお会いしてみたいと思わされます。
今の彼の活躍をみると異次元のことを行っていて、自分とは違いすぎる、と感じてしまう人もいるかもしれませんが、彼が行ってきていることは「野球少年」として自分の好きな野球に一番正直に向き合ってきている結果なのだと思います。
そして、彼が最もまっすぐにむきあってきたからこそ、周りの大人達もそれをサポートする形を取り続けてきたのだ、と。
環境が人をつくる、といわれます。
それは間違いありません。
しかし最も大切なのは、誰かに強要されてその場に足を留めるのではなく、自らの意志で進む道を選び、歩み続けるということなのだと思います。
こんな人にオススメ!
・大谷翔平さんについてもっと知りたい
・活躍する人の思考や行動について知りたい
・活躍している人の親はどのように接してきたのかを知りたい
・好きなことに向き合うということはどういうことなのかを知りたい
・本当の意味でサポートや指導をするというのはどういうことなのかを知りたい
という方にはオススメできる本です。
この本を通じて、彼の人間性に触れることができたことにより、いつかお会いする機会があればいいな、と思っています。
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それではまた
森部高史