スポーツの世界で活躍するトレーナーになってアスリートを支えたい。
そんな思いを持つ人は後をたちません。
ここ10年ほどで日本でもアスレチックトレーニング学科を擁する大学や専門学校が増えてきましたが、スポーツ大国アメリカに渡りその道を目指す人もいます。
自分もご多分に漏れずアメリカに渡りATCになり、スポーツビジネスの本場アメリカにおいてそのスポーツ現場を満喫してきました。
この記事では、ATCになるにはどうしたらいいかについてお伝えしていきます。
目次
ATCに進む人の現状
ATC(Athletic Trainer, Certified=公認アスレティックトレーナー)という職業をあらわす言葉が、フィットネスや健康業界ではさほど珍しくなってきた感じのある昨今ではあり、多くのATC仲間が様々な分野で活躍している様子は頼もしくもあります。
僕がATCになるためにアメリカに渡ったのが2004年。それから早いもので12年が経過しました。この時間の流れの中で、その周りを取り巻く環境も大きく変化したように思いますが、それでも一般的な認知度はまだまだ高いとは言えないと思います。
今現在、ATCになるために渡米する人数が一体どのくらい増えているのか、ということはわかりませんが、現在もアメリカで活動している仲間から聞くと「あまり増えているようには思わない」という話も聞きます。
しかしながら、日本で活動をしている中で自分よりもずっと若い子達がすでに資格を取得して、帰国し仕事をしたり、仕事を探したりしている現状をみると、本当に増えていないのかな?という気もします。
自分自身がアメリカにいる頃には、沢山の活動されているATCやATCの卵達に出会う機会があり、大抵の人は知っている、もしくは一人介せば繋がるというような状況でしたが、今は「え!こんな方もいらっしゃるんだ!」という浦島太郎状態です。自分自身、現場から離れているということも大きいかもしれませんね。
とはいえ、スポーツに関わることを仕事にしたい、という人は未だに多く、ATCもその一つの選択肢であることにはかわりないし、ぼく達の時代よりも気軽に選択肢に入りやすいのかな、と思います。
ATCになるためにはどうしたら良いか
自分自身、高校時代からスポーツに関わることに興味を持っていましたが、当時は英語も喋れないし、トレーナーになりたい興味自体もどれほど持続的なものかもわからなかったので、高校を卒業してすぐに進学することはやめて、もう一つの夢である教員になるために、日本の大学に進みました。
紆余曲折を経て、再びアメリカに渡ることになるのですが、今のようにインターネットが発達している時代でもなかったので、まずはその情報収集に苦労したのを覚えています。
大学の願書を出すためにアメリカから取り寄せる必要があり、その為に本屋さんでものすごい分厚い大学を調べるための本を買ったものでした。
ですが、今の時代便利になりました。ちょっとインターネットで調べればそこに答えがあります。
アスレティックトレーナーの母体となるNATAのサイトにその手順が詳しく書いてあります。
昔はインターンシップ制度というものがありましたが、これも大分前に廃止され現在はCAATEに承認されているプログラムに進学することが必須条件となります。
何から調べたら良い?
まず、最初に大学学位を既に持っているかどうかが大きな選択肢の分かれ目になります。
大学の学位(Bachelor’s degree)を持っていない
大学の学位を持っていないのであれば、前述のCAATEに記載されている、プログラムタイプからProfessional レベルを選び、学位レベルプログラムからUndergraduate(学部レベル)を選択し、該当する大学を探していくことになります。
大学の学位をすでに持っている
大学の学位をすでに持っているのであれば、選択肢は二つあります。
- 大学学位を持っていない時のやり方と同様に再び学部に進学し、2つ目のBachelor’s degreeを取得する
- Entry-levelの修士課程(大学院)に進学する (上記サイトの学位レベルでMasterを選択すると認定校が見れます)
認定校がたくさん!何を基準に選ぶの?
調べてみると、認定校がたくさんあってどこの大学にしたら良いのか非常に悩むこともあると思います。その選び方は様々なのですが、こんなことを基準に選んでみるのはどうでしょうか。
地域(西海岸、東海岸、北部、南部など)
アメリカの国土は広いです。ぼく自身は大学院から仕事をふくめ、南部であるアーカンソー、西海岸のカリフォルニア、北部のカナダ国境間際の方のニューヨーク、そしてハワイと様々な州で経験を積んできました。その経験からいえることは、その地域によって生活様式も違えば人柄や性格というのも違います。まったく馴染みのない地域に飛び込んでいくことにハードルが高く感じる人もいるかもしれません。おおざっぱに、どの地域で過ごしたいかというのも一つの考え方だと思います。プロチームが同じ州にあるかないか、というのもひとつの環境としては興味を引くところかもしれません。
入学条件
多くの日本人にとっておそらく最初の入学の壁はTOEFLの基準を突破するかどうか、でしょう。大学やプログラムにより、入学条件には多少の差があるのでその部分をクリアしているかどうかを確認しておくことも大切なことだと思います。
予算
留学は当然ですが、お金がかかります。授業料だけでなく、生活費も地域によって大きく違います。アメリカですから車も必須です。カリフォルニアのロス近郊に進学するのと、中西部のいわゆる田舎地方に進学するのとでは、金銭的な予算の組み方も大分違ってきます。大学の奨学金プログラムの充実さなども一つの選択肢になりえるかもしれません。
教授
すでにこの教授から習いたい、もしくはこの大学ではこういったことを学べる広がりがある、ということがあるのであれば留学先選びというものはさほど大変ではないかもしれません。方向性さえ決まればあとはそのプログラムに入れるように準備をするだけです。
日本人の卒業生が多いプログラム
これは良し悪しかとも思いますし、このことをどう取るかはその人次第というところがありますが、日本人の卒業生を多く輩出しているプログラムは、ある程度日本人留学生の扱いに慣れているところもありますし、先人たちがしっかりとした足跡を残しておいてくれていれば、学びやすい環境はあるかもしれません。また卒業してからも同窓としてのつながりというのが強いプログラムも存在します(そうでないところも多いので、すべての学校がではないですが)
卒業生の合格率及び進路
卒業生の合格率や進路先なども可能であれば調べてみるといいかもしれません。どういった業界で活躍している卒業生がいるのか。資格を取ることだけに一生懸命にならずに、その先に何があるかを見据えることでみえてくることや新たに考えることもあると思います。
大学の競技レベルとスポーツ
アメリカとなるとその競技レベルは様々です。NCAAレベルであればDivision Iと言われるところからDivision IIIまで。また同じDivision Iであってもその規模は大学によって大きく違います。フットボールがある大学、ない大学も存在します。自分自身が見たい特定のスポーツがあるのであればその競技があるかどうかは将来的なことを見据えても考えておくにこしたことはないのではないでしょうか。
進学先としてDivision I が良いのかDivision IIIが良いのかは意見が分かれるところだと思います。人によってはDIは選手との関わりが薄く、DIIIの方が選手と直接的に関わり合いを持てるという人もいれば、それは関係ないという人もいます。
選手の質としてはDIの方が高いですし、生活も競技にドップリです。そういった環境は学生のうちの方が見易いということはあるでしょう。とはいえ、DIIIに進学してその後キャリアを重ねる中で、プロのチームに関わりを持っている人たちもたくさんいるので、「ここにいけばこうなる」と一概に言えるものでもありません。
詳しいことは各大学のプログラムディレクターに直接確認を!
細かい入学条件などは各大学によって異なるところがあるので、自分の興味のあるプログラムの見当がついてきて、充分なリサーチをしても個人的な状況で不明瞭なことがあるのであれば、プログラムディレクターに連絡をとって確認をしましょう。。プログラムディレクターの返信の早さや丁寧さ、なども個人的に気にしているポイントでした。ただし明らかに調べていないのにとりあえず質問をするのは避けましょう。プログラムディレクターはとても忙しい方々ですから。
資格をとりにいくだけではなく、その後に何をしたいかをイメージできていますか?
もう僕自身、スポーツ現場のサイドラインにたつ最前線にいるわけでは無いので、ATCになるための留学相談を受けることは知り合いの関係で稀にのるくらいですが、相談をしてきた人に必ずする質問があります。
「資格をとってからどうするの?」
「それはアメリカでなければ出来ないことなの?」
僕がアメリカに渡ったときとは時代も違いますし、事情も違うでしょうから僕の経験が全てだとは思いません。
しかしながら、時代的にさほど情報が手に入れやすいわけではなかったことを踏まえても、自分の視野は狭かったように思います。
「アメリカに残るんだ!プロのチームでやっていくんだ!」
それだけでした。これは自分がアメリカに渡った時は、安定した教員という職を捨て、26歳になる年という遅めのスタートだったという事情もあるとは思います。
結果、アメリカでの時間を過ごす中、プロの現場も限られた時間で限定的な場ではありましたが2つの異なるメジャースポーツのプロの世界、そして2つのマイナーなプロの世界を見せてもらう機会に恵まれた中で、自分がやりたいことはプロの世界ではないということがはっきりしました。
その後、いろいろな方の助けを経て、様々な大学で仕事をできるご縁に恵まれ、現場での経験を積ませてもらいましたが、その中で生まれてきた想いというものは「アスレティックトレーニングはスポーツ選手のためだけではない」というものでした。その想いが、今のロルフィング®を始めとする活動にもつながっているのかな、と思います。
日本でもできることはたくさんあります
「資格を取ったらすぐに日本で帰って仕事を探します」という人にはわざわざアメリカに行く必要無いんじゃ無い?ということも聞いてみます。
日本で活動するのであれば日本で活動している時間が早ければ、そして長ければいろいろな人との繋がりも早いですから。何も時間とお金をたくさんかけてまで、その後の日本での活動のために費やす必要は無いのでは無いかと個人的には思っています。
アメリカにはいかず日本で学び、活動をしている人にも素晴らしい活動をされている人はたくさんいます。同時にアメリカでATCの資格を取って帰ってきても生活ができなくて苦しんでいる人たちもたくさんいます。
こうすればああなる、というような方程式はありません。自分でその答えは見つけていくしかないのだと思います。だからこそ下調べはしておくに越したことがないと思います。
ぼくも以前、カンファレンスでスピーカーを務めさせていただいたJapan Athletic Trainers’ Organization (JATO)にも、NATA/ATCとはなどの説明があるので参考にしてみてください。
日本体育協会のアスレティックトレーナー
日本体育協会もアスレティックトレーナーの資格を発行しています。
ぼく自身は日本体育協会のアスレティックトレーナー資格は持っていないので、詳しい実情はわかりませんが、リンク先を参考にされるなり、日本で活動されている方にお話を聞いてみるのもいいのではないかと思います。
資格はただの紙切れ
ここまでアスレティックトレーナーの資格について書いてきました。今までも何度もこのブログに書いてきていることではありますが、資格が飯を食わせてくれるわけではありません。
資格は国家資格のように法的なものをクリアするものもありますが、そうではない民間発行のものもたくさんあります。 NATA公認ATCもアメリカでは準医療資格としての位置付けがありますが、日本では何の効力もない資格です。
また、日本体育協会のアスレティックトレーナー資格も国家資格ではありません。
極端な話、「トレーナー」と名乗りたければ、その勉強をしていようがしていまいが、「トレーナー」と名乗った瞬間から誰でもトレーナーを名乗れてしまうのが現状です。
また、トレーナーと言ってもアスレティックトレーナーもいれば、ストレングス&コンディショニングコーチ、パーソナルトレーナー、最近だとボディメイクトレーナーなどなどいろいろな形で活動をされている方々がいらっしゃいます。
ですから大切なことは
- 自分自身が何を学びたいのか、何を届けたいのか
- それを届け続けていくためには何をしていくのがいいのか
そのことを考えることではないかと思います。
その過程に資格というものがあり、ATCになるということが必要なのであればいいと思いますが、そうでないのであれば違う方法を模索することも悪くはないのではないでしょうか。
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資格を取得するには膨大な時間とお金がかかります。社会人をしている人が留学をする、となるとその費用だけでなく、本来稼ぐことができたはずの金額も手に入れられない損失として考える必要があると思います。
極端な話、資格はお金と時間をかけてしまえば誰にだって取れるもの。その先に何を見据えていますか?
まとめ
人生の進路を決めるということはとても難しく、頭を悩ますものだと思います。
でも悩んでください、苦しんでください。だってそれはあなたの未来ですから。しっかりと考え、悩んで、また考えて、人の意見で決めるのではなく、自分で決断をしてください。
自分で決めることができたのなら、そこに後悔の2文字はなく、進んでいくことができると思うから。
[aside type=”warning”]あくまでも個人の体験に基づいたものです。またぼくが留学した時とは時代が異なり、専門としているわけでもありませんので、留学相談は受け付けておりません、ご了承ください。一つの物の見方として認識していただければ幸いです。 [/aside]
それではまた
森部高史