*妻に乳がんがあることがわかり、そこで体と心を繋げる専門家として仕事をしていること、そして夫としての立場から乳がんについて思うこと、知っていてほしいことを書き綴っています。
なお、ブログ本文中では「ガン」のことを「ぷるっぽん」と記述しています。「がん」という響きはあまり心地よくないので。
なぜ「ぷるっぽん」なのかはこちらをどうぞ。
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今日からあなたは【第二の患者】です。
そう言われた時、あなたは何を感じるでしょうか?
何を感じるでしょうか、と書きましたが、あなたが感じることは何もありません。
なぜなら、誰もそれを宣告してくる人はいないからです。
だからこそ、知っておいて欲しい、第二の患者という言葉を、そして概念を。
目次
第二の患者という意味
先日行われた、「乳がんからわたしと家族を守る」セミナーは、大変多くの方にご参加いただき、「参加してよかった」「家族で話をするきっかけをもらえた」などと嬉しいお声を頂きました。
保険会社にお勤めの方もいらしてくれて、今後こういった実体験をお話してくれる人を必要としていて、とお声掛けもいただきました。
小さな一歩ではありますが、少なくとも私たちと関わりを持ってくださる方々には伝えていきたい、知っておけば怖がる必要もないし、迷うこともないから。私たちが体験したことを当事者になる前に知っておいて欲しいから。
【動画】:「第二の患者として」でお伝えしたこと
「乳がんからわたしと家族を守る」セミナーにおいて、妻を患者として持つ、自分が「第二の患者として」直面していることについてお話をさせていただきました。
動画はこちら↓ (多くの方にご覧いただき、コメントも直接頂いています。ありがとうございます)
https://vimeo.com/233104554
そもそも「第二の患者」とはどういうこと?
僕が第二の患者、という言葉を知ったのは、妻の闘病を頑張って支えていかなければ!となっていながらも無理が出てきて肉体的にも精神的にも弱ってきた時でした。
もちろん、病気と向き合っていく患者さん自身も大変なのですが、その周りの家族や近しい人というのも多大なる変化が生活に生まれます。
患者さん自身、自分の病と向き合う中で以下のような変化が生まれます。
これは後でご紹介する書籍『今日から第二の患者さん』の中で提示されているものですが、患者さんの生活において変化してしまう事柄の一例として
- 不安で眠れない
- イライラする
- 人間関係の変化
- 収入の減少
といったものが挙げられています。
そして実はこれと全く同じことが、その家族や近しい人にも起こります。
家族や近しい人はそれまでおこなっていた仕事などはそのまま継続となるので、患者さん以上に生活に変化が余儀なくされます。
その結果として、看病を経て鬱になってしまう方もすくなくないとか。
だから「家族は第二の患者」と言われ、こちら側にもサポートが必要なのです。
セミナーでご紹介した本2冊
お話の中で2冊の本をご紹介しました。
成功者の告白:神田昌典さん
神田昌典さんは、日本有数の経営コンサルタントでマーケッター。
この本を知ったきっかけは、あるクライアントの方が妻の状況を知り、「どうお伝えして良いのかわからないのですが、この本を読んでいたら森部さんのことが頭にずっと浮かんできて。。。」
ということで、早速その日に購入をし、読んでみました。
内容としては、独立起業をした人の、段階を踏んだサクセスストーリーなのですが、何千人という経営者をみてきた神田さんはある法則に気づいたそうです。
それは、事業が成功していくとその本人ではなく、家族である妻や子供に何か良からぬ事が起こる、というもの。
光が強くなれば影も濃くなります。
僕も日本に帰ってきて5年、Kukuna Bodyがお陰様で多くの方に支えて頂き、2017年の3月に法人成をし、株式会社Pono Lifeとなりましたが、その登記の数日前に妻に診断がくだりました。
なるほど、この本をご紹介くださったクライアントさんが僕のことを思い浮かべるのも無理がありません。
決して病気や身体の事にフォーカスが当たっている本ではありませんが、経営者として足元を見つめ直す良いきっかけとなった本でした。
今日から第二の患者さん がん患者家族のお役立ちマニュアル 青鹿 ユウさん
この本は第二の患者、と言う言葉にであい色々と調べていた時に偶然見つけた本でした。
作者の青鹿さんは結婚直前にフィアンセ(後にご結婚されます)に大腸がんがあることがわかり、献身的にサポートしていきます。
しかしながら、そのサポートをする過程で生まれる苦悩や、周りからの言葉、そして何より大切なフィアンセとイライラしあい、喧嘩になってしまう、、、
なぜ、サポートしたいのにこんな風になってしまうのか、、、
という苦悩を描いた1冊。
これをすぐに購入して読んでいて、首がもげるほどに頷きましたし、涙も出てきました。
そして何より救われました。
自分以外にもこんな風に感じている人がいる、、、ってとても勇気づけられました。
これは、「がん患者家族のお役立ちマニュアル」という副題がついていますが、どの病に関する方でも同じことが言えるのでぜひ手にとって頂きたい一冊です。
宣告から6ヶ月、第二の患者としてきつかったこと
セミナーを通じてお伝えしたかったことは、今だからこその「リアル」を感じてほしかったということ。
今、妻は術前化学療法の真っ最中で、来月手術になります。
それはまたひとつもふたつも彼女が超えなければならない山があり、当然夫である僕にもありますが、人間の凄い所は忘れる、ということ。
この手術が終わると、また1つ大きな山を越えるので、それから先は「経験者」としての言葉になってしまいます。
だからこそ、「いま」の言葉を伝え、残しておきたかったのです。
「きつかったこと」
この半年、大変だったけれど覚えていないことがたくさんあります。きっと必死だったから。でもたくさん笑ってもいました。ただやっぱり一筋縄ではいかない時もあった。
特に僕がキツイと感じていたことはこういったこと。
その1:キツイと言えない
大切な家族である妻のために、色々と頑張ります。うちには1歳半(当時)の娘もいてまだ授乳中でしたから、やることはたくさんあります。会社も立ち上げたばかりだったので不慣れなこともたくさんありました。
それでも頑張りました。
妻のために、娘のために。
でもこの「ために」が曲者。必要以上に頑張ってしまうのです。
なぜ頑張るのか
できることがあるのにやらないと不安になるのです。たとえ自分がもうアップアップでも。
そしてキツイと言えないのは、もしそれを自分が口にしたらどうしたって、妻は「わたしのせいで、、、」となってしまうから。
でも、頑張れるのは3ヶ月が限界です。
1−2ヶ月はあっという間に過ぎていきます。
どういう状況だったか、今や思い出せません。
3ヶ月をすぎると、とんでもないミスが増え始めます。
ダブルブッキング、スケジュールミス、メモの取り間違い、話の食い違い、、、恐ろしいほどに多くのミスが生まれ多くの方にご迷惑をおかけしてしまいました。
その2:ウィルパワー(Will Power)の枯渇
ウィルパワーは決断する力。その量は毎日決まっているといいます。
この言葉が注目されるようになったのは、スティーブ・ジョブズ氏が毎日同じ服を来ているということで話題となりました。
「毎日重大な決断をしなければならないのだから、不必要な決断はしなくて済むようにルーティーンにしてしまう」というもの。Facebookのザッカーバーグ氏も同じことを述べています。
自分の場合は、彼らのように世界を動かす決断をしているわけではありませんが、半径数メートルの自分の世界は動かしているわけです。
妻の治療スケジュールがあり、治療方針の決定、まだまだコミュニケーションもとれない娘、立ち上げたばかりの会社、そして仕事、、、
一番ひどかった時には、本当に何も決めたくなく、自分がトイレにいくことですら決めたくなくなるほどでした。
他にも、身体に関わる仕事をしているので、ありがたいことに色々なものをご提案くださる仲間に囲まれて、たくさんの情報が集まってきました。
同時に、抗癌剤治療を選択したことを揶揄したり、セカンドオピニオンをとらずに治療を決定したことを叱責する人などもいました。
(ちなみにセカンドオピニオンは当然考えました。しかしセカンドオピニオンを取るにも2−3週間の時間がかかるということで進行してしまうリスクが高かったこと、そしてなにより主治医の先生を信頼できると思った妻の、そして先生からも話を直接聞けた僕の決断がありセカンドオピニオンはとらずにすぐに治療に踏み切ることにしました)
人間関係が大きく変わった出来事でもありました。離れていった人もいれば、逆に離れていたけれどまた近くになった人もいます。
様々な種類の決断に追われる日々でした。
一番たいへんな時に、「何をしたい?」と知人に声をかけていただいた時に崩れそうになりながら「今は何も決めたくないです、、、」と自分の口からこぼれたのには驚きましたし、何よりショックでした。
自分で言うのもおこがましいですが、決断力、行動力、実行力、そして体力はかなりある方です。その自分が、こんなにもちょっとしたことを考え行動に移すことに疲れ果てるとは思いもしていませんでした。
その3:相手の不安定な感情に巻き込まれる
『今日から第二の患者さん』のなかにもありますが、患者さん自身は、自分の快・不快の波がわからなくなってしまうことがあるそうです。
それは病気と戦う不安や恐怖からなのか、もしくはお薬の作用があるのか、はたまた両方、またはそれ以外の要素も含めておこってくることなのかわかりませんが、感情の起伏は激しくなります。
抗がん剤の副作用もあります。抗がん剤は様々な種類があり、それはどういったものを患っているかによっても使用するものは異なるようですが、妻が最初にしようしていたFECというものは、3週間に1度の投薬ですが、10日間はほぼ寝たきりで気持ちが悪くて動けないような状態でした。それから数日は元気に動き、また投薬の3日程前から憂鬱な時間がはじまります。
体毛が抜けるなども大きなショックなことがらですから、そういったことの積み重ねは僕が伺い知ることはできません。
こういったことの積み重ねから、今、この瞬間はOKでも次の瞬間にはものすごい不機嫌になることも少なくありません。会話がなりたたなかったり、視線を合わせてもらえなかったり、こちらの声が届かなかったり。
そのため、それに対してイライラしてしまうことも正直ありましたし、今もあります。
逆に、こちらが凄く傷ついてしまうこともありました。
これはしょうがないことなのです。本人は気づいていないことだから。
(因みに『今日から第二の患者さん』の巻末にはフィアンセがこの作品を読んで見た時の感想が載っています。普段は怒ることなどしない温厚な彼だそうなのですが、御自身で読んでみた感想は「俺、こんなにひどいことしてた、、、?」というものだったそうです)
でも、それでも自分が患者になったときにはこういったことが起こりうるということは、当事者になっていない今だからこそ、知っておいてほしいのです。
誰だって意図的にパートナーを傷つけようとはしていないはずです。
だからこそ、普段からありがとうを伝えること、感謝の気持ちを態度で表すこと、じぶんのやりたいことを伝えることを大切にして欲しいと思います。
そうはいっても我が家も上手くやれているのかというと、上手くやれていない時もあります。でもそれも一緒に乗り越えていかなければいけない時間であり、壁なのだと思います。自分が選んだ人とつくっていく家族だから。
その4:傷つけてくる言葉たち
これもね、悪気がないということはわかっているのです。
でも、一番傷つく言葉を投げてくる人たちって誰だと思いますか?
それは家族、そしてがん経験者の方々の言葉です。
- 「そんなもんだからしょうがない」
- 「側にいるあなたがしっかりしないと」
- 「お子さんもいるんだからかわいそうに」
- 「そんなこと言ってもしょうがないじゃないの」
- 「情けない」
励まそうということもわかります。たくさんご迷惑やご心配をおかけしていることから一言言いたいこともわかります。
でも受け取れないのです。
家族にはとてもとても助けられています。娘が1歳半の時に治療がはじまり今は2歳になりました。甘えたいさかりです。寂しい思いを沢山させてしまっています。預けて出て来ることが多くなることから「行っちゃったー」が娘の口癖になりました。
「ちゃんと帰ってくるよ」と伝えてたくさん抱きしめますが、親として情けない気持ちでいっぱいになっています。
それでも、娘も娘にとっての祖父母や叔母、叔父が大好きで、またみなも娘のことをとても可愛がってくれていることが本当にありがたいです。
家族の協力なしには、仕事も家庭もまわることはありません。
もし、これを読んでくださっているあなたの家族に同じような事が起こった時、側にいるからこそ、または経験者として乗り越えてきたからこそ言いたくなることもあると思います。
どうか伝えるタイミング、見計らってあげてください。
自分は、トイレに行くことすら決めるのも嫌になるくらいでした。これ以上何を頑張れば良いのでしょうか。
守るべきことは妻と娘。わかっています。自分がしっかりしなければいけないことも誰よりもわかっています。必死でやっているのに砂が手のひらからこぼれ落ちていくのです。
どうか、何も言わず、手を差し伸べて下さい。
一生続くわけではありません、どうか甘えさせて下さい。
情けないのは自分が一番わかっていますから。
どうか、今はただ、普通に接していて下さい。
アドバイスはいりません。何か特別励ます必要もありません。
ただ、ただ、普通に接していて下さい。
あ、あとね。
「乗り越えられる壁しか現れないから頑張って」
これもね、、、
いや、そうなんです。
本当にそうだと思うし、これを乗り越えていったらどんな世界になるだろう、と思っています。
実際、自分も会社をたちあげてすぐに、これだけ仕事をセーブしているけれど、その中で今までと同じ収益をあげたり、最高収益を出すことができたら、、、というチャレンジは持っています。
でもね、これって自分が思うならいいのですが、周りの人が言うことではないんですね。
だって、そんな壁があらわれることで大切な人が苦しんでいるのなら、そんな壁出てこなくていいですから。避けられる壁なら避けていきたいです。自分のことだったらいいんですけどね。
自分が患者自身、または第二の患者となったなら
ならないことが一番だけれど、もし自分が当事者となったら知っておいてほしいことがあります。
まずは、しっかりと感情を出し切って下さい。
僕達夫婦は、最初の数日「もう涙が出ない」というくらい泣きました。
二人でないたこともあれば、娘を含め三人で泣いたことも。そしてもちろん一人で泣いたことも。これってとても大切なプロセスです。
外に助けを求めて下さい
いきなりのことでショックだし、わからないこともたくさんあって、色々と落ち着かない事が続くと思います。だから当事者となる前に知っておいて欲しいことはあります。
そして当事者になったときには、早く外に助けを求めて下さい。自分で頑張る必要はありません。
「ちょっと大変なんだ」
「こういうことで助けてもらえると嬉しいな」
そこまでじゃなく、単に「ご飯作りに来て」「お話しよ」そんなことだっていいんです。助けになりたいと思ってくれている人はたくさんいるから。
我が家もたくさんの方に助けていただいています。ありがとうございます。
家族で話を
色々なことが起こります。そしてご家庭によって事情は異なるから、これがよかったから全ての状況で通用するということもないでしょう。
だからこそ「我が家では何を大切にするのか」「私は何を大切にするのか」「どうしたいのか」しっかりと話しをしてください。
そしてその話し合いは一度や二度ではなく、何度となく行われていくものになります。
どういった形で数年後を迎えたいのか、そしてその為には冷静に現状把握をし、然るべき行動をとっていくことです。
動画のなかではこういったことをお話しています。
動画の中では説明しきれなかったことを少し追記した感じでもあります。とてもじゃないけれど上手に伝えきれていたとは思っていません。でもこれが今のリアルです。
あくまでもこれは僕の一個人としての意見です。ですからこれが全てではありません。
こんなことを書いているけれど、「じゃあお前はどれだけやれているんだ!」と言われたら、やれていることもたくさんあるけれど、やれていないこともたくさんあります。
それでもまだ、僕は仕事のスケジュールを調整、料理、掃除、洗濯、子供のこと、はそつなくこなせます。こういったことがもし何もできない自分だったら、とおもうとゾッとします。
夫婦ふたりだけなら楽なのかもしれません。我が家は娘がまだ小さいから余計に大変なのかもしれません。同時に娘がいてくれているから救われていることもたくさんあります。会社の立ち上げということもあったと思います。
でもそれはこちらがコントロールできるものではありません。起こる事柄はかわらないから、それに足してい自分がどう対応するか、それだけです。口でいうほど簡単ではありませんが、そうするしかないのです。
かつては乳がんは50−60歳で良く見られるものでしたが、いまはその年齢が下がってきて、30代−40代での乳がん患者の数も増えてきています。そして、出産の高齢化もあり、我が家のように子育ての真っ最中にこういった治療にかからなければならない人もこれからますます増えていくのではないでしょうか。
だからこそ、これをきっかけに考えはじめてもらったり、家族と話になってくれたら嬉しく思います。
当事者になってしまったら、話は入ってきません。ただただ、焦りと不安が支配してきます。
だから当事者になる前に、どちらの立場のことも知っておいて欲しい、少なくとも私たちと関わりを持ってくださっている人たちには。
こんなことは誰にも起こらないのが一番です。でもガンだけ言っても2人に1人がなる時代です。
乳がんは12−3人に1人がなる時代。
だから、起こりうることとして、ちょっとだけでも知っておいて欲しいから。
動画はこちら↓
https://vimeo.com/233104554
それではまた
森部高史