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妻がガンになりまして

妻がガンになりまして:その4「抗がん剤という選択」

*妻に乳がんがあることがわかり、そこで体と心を繋げる専門家として仕事をしていること、そして夫としての立場から乳がんについて思うこと、知っていてほしいことを書き綴っています。

なお、ブログ本文中では「ガン」のことを「ぷるっぽん」と記述しています。「がん」という響きはあまり心地よくないので。

なぜ「ぷるっぽん」なのかはこちらをどうぞ。

その3はこちらから


妻が診察結果を聞きに行き、ぷるっぽんと生活していることがわかりすぐに治療方針が決定されました。それは、抗がん剤を使用してがん細胞を小さくし、その後手術を行うというもの。

その治療方針が決定される診断結果をきく時に僕は同席をしていませんでした。(その2参照

家に帰って、妻と顔をあわせた時にその治療方針と入院の日程を聞かされました。
あまりの展開の早さに驚きました。1週間後には入院で抗がん剤の1回目の投与がはじまるなんて。

「そんなすぐに?ほんとに?なんで!?」

それが率直な感想でした。

抗がん剤についての恐怖

率直に行って、抗がん剤についてあまり良い印象を持っていませんでした。先に言うとそれは自分の勉強不足でしかなかったのですが、当時の正直な感想です。

ボディーワーク業界にいると、ホリスティック(全体性を重んじる)なアプローチに触れる機会が多く、私自身も人間の身体というものをより良く理解するためにフィジカルな部分とは両極にあるエネルギーワークと言われるものを学んだこともあります。そういった業界ではワクチンや抗がん剤などについてあまり良い話を聞くことはありません。

極端な話では、一部の人がお金儲けをするためだけに多くの犠牲を生み出しているという陰謀論まで耳にすることもあります(真偽の程は僕にはわかりかねます)。

そういった話に意識的にせよ無意識的に触れてしまうことで、どこかで「使わなくて良いものであるならば使いたくない」という気持ちが生まれていたのも正直な思いでした。(ミイラ取りがミイラになるような感じですね、危うい)

また、僕の母も部位は違いますが20年ほど前からぷるっぽん経験者です。そして母は抗がん剤を使用せずに、違う治療法を選択し今日まで来ています。ただその治療法を選択した際にも多くの先生からは「抗がん剤を使ったほうが早い」と言われたそうです。

そのためかどうかはわかりませんが、発見当初は3ヶ月に1度くらいのペースで手術を行っていました。

他にも、周りのぷるっぽん経験者も抗がん剤を使用している人があまりおらず、他の治療法があるのではないかという思いが頭を支配していました。

それに、抗がん剤の副作用として脱毛があります。女性にとって毛髪のことに関してはとても大きな問題です。妻がその点において大きな戸惑いを感じていたことはいたいほど伝わってきました。

結論として、妻の希望もあり(もちろん僕の希望もあり)、入院を延期して僕も娘も交えてもう一度主治医の先生にお話を伺うことにしました。

自分自身のガンについての無知さ

先生は、突然のスケジュール変更にもかかわらず、ゆっくりお話ができるでしょうから、と診察時間終了後にわざわざ時間をとってお話をしてくださいました。このことは本当に感謝しています。

先生も現在行われている様々な治療法や、いわゆる民間療法を希望したい方とお話をされて来ているのだと思います。

大切なことは、今何が起きていて、必要な情報を理解することです」

そう落ち着いたトーンで、淡々とお話をしてくださいました。

  • どういう検査を行い
  • 現在どういった状況なのか
  • それに対する有効な手段は何か
  • 今後の治療方針
  • 全快までの過程

そのなかで、妻が抱えるぷるっぽんは、抗がん剤が非常に有効なものだと言うお話をしてくださいました。

この時まで僕は、お恥ずかしい話ですが、がん細胞に様々な種類があるということを知りませんでした。そして抗がん剤にも様々な種類が存在します。

妻の抱えるぷるっぽんは10年程前までは、たちの悪いものという認識で予後もあまり良いものではなかったそうですが、7−8年前から出始めた薬によって、その評価が180度転換し、今では「抗がん剤が最もよく効き、早期発見においてはほぼ完治する」と言われるものということでした。

副作用についての吐き気なども最近はそれを抑える薬も改良されているので昔のような状況ではない、ということ。そして毛髪については脱毛は起こるけれど、また生えるものだからとこれもまた淡々と「これは隠してもしょうがないからね」、と。

たしかに女性にとっては精神的負担の大きいものだけれど、先生が見てきている患者さんの多くはウィッグなどを楽しんでいる、というお話でした。

それでもやはり、どこか恐怖感があるので僕が先生に聞いたことは

「抗がん剤を使わないという選択肢はないのですか?もしくは少し様子を見ることとかは?」

先生の答えは

このタイプははっきりと効果が高い治療法が確立されているのでこれを使わないという選択肢はむしろリスクを高めます。そして正直にいうと、進行は早いタイプのものです。だからもうここまでわかっているのだから、治療を速やかに開始しないほうが私としてはとても怖いです」

とはっきりと専門家としての意見を述べてくださいました。

それを聞いて、妻も怖さはまだあったと思いますが、先生を信じ肚をくくりました。

「お願いします」と。

専門家に意見を聞くということ

最初はセカンドオピニオンを別の病院に聞きに行く、という気持ちもありました。しかしここまではっきりと言っていただいたのであれば、その必要はもうありませんでした。

セカンドオピニオンをとるのにも、診断書をもらい、別の病院に問い合わせ、セカンドオピニオン外来があるところであっても1週間以上先の診察になることがほとんどで、そこから仮にそちらの病院で治療をはじめるとなっても、さらに2−3週間はずれこみます。

それでは「進行が早いタイプ」のぷるっぽんに多くの時間を与えることにもなり、それがリスクを高めてしまうことにもなりかねないので、セカンドオピニオンはとらずに先生にお願いすることになりました。

進行が遅いタイプのものであったり、違うタイプのぷるっぽんであったなら、セカンドオピニオンを取りに行っていたと思います。

最終的なところは、その先生に対する信頼度だと思うのです。

口数は決して多くないし、愛想も良いとはいえない先生ですが、とても真剣に仕事に、患者さんに向き合っていることは伝わってきていたので、ここまではっきり言うのなら、ということが妻と僕の決断を楽にしてくれました。

専門家はそのことを専門にしているから、専門家なのです。その専門知識を持った人を信用しているのであれば、その言葉は信じる。それは僕達も分野は違えど専門家として仕事をしているから大切にしたいところでもあります。

かくして、妻はぷるっぽんとバイバイするために抗がん剤を選択することになりました。

世の中には色々な対処法がある

あえて、「治療法」とは書きませんでした。世の中には様々なアプローチがあります。

自分の家族にぷるっぽんが潜んでいるということがわかってからは、目にする情報の多くがそれにまつわるものになりました。

「これがいいらしい」
「あれがいいらしい」
「それはダメだ」
「私はこれで克服しました!」

そういった類のものです。

特に、ぷるっぽん経験者で抗がん剤を使用していない人の言葉は、信じたくなってしまいます。

「こんな方法があるんじゃないかっ!」って。

でもね、ちょっとまってほしいのです。

確かに抗がん剤については、正常な細胞まで傷つけてしまう、と言われます。吐き気や脱毛などといった副作用の観点からもそれは本当なのでしょう。抗がん剤を使用したことで良くない状況になった人がいる、という話もインターネット上にはたくさんあります。

確かにすべての人が全快に向かっていくことが理想です、しかしそうはいかないことも現実ではないでしょうか。

確かに上手く効かなかった人もいるでしょう、しかしそれによって助けられている人たちはその何百倍も何千倍も存在していることもわすれてはいけません。

民間療法について

「様々なアプローチ」と書いたものはこの民間療法をさします。

多くのものは「免疫力を高めるために」という観点から、体温をあげるものや食べ物に注目したものなど色々あります。

また、話しかけることでがん細胞が小さくなるというようなエネルギーワーク的なものもあります。

そのどれもが意味のある、素晴らしいものなのだと思います。ぷるっぽん経験者ご自身がそれらを行うことにより、ぷるっぽんとバイバイできたのであればそれも素晴らしいことです。

ただ、だからといってそれを鵜呑みにすることはちょっと待ったほうが良いですし、民間医療を選択している場合は、伝える側も出来る限り正確な情報を提供するべきではないかと感じています。

なぜならがん細胞には様々な種類があり、そのどれもに対して有効とは言い難いからです。

ですから、民間療法で自身の状態が回復したという方は少なくとも

例えば

  • 影響を受けている部位、および範囲
  • ぷるっぽんの種類
  • 発生からの期間
  • 進行速度
  • ステージ
  • それに対してスタンダードに用いられる抗がん剤や治療法、及びスケジュール

これくらいのことは、まずぷるっぽんそのものの情報として記述が必要かなと思います。

そして、ご自身の状態に関して

  • 年齢
  • 既往歴
  • 配偶者・子供の有無
  • ライフスタイル
  • ライフステージ(仕事バリバリ、子育て中、ひとりきまま、など)
  • 将来設計
  • 人生観

このあたりまで書いたうえで

「私はその上で◯◯を選択し、抗がん剤なしでもガンを克服しました!」というのであれば変な誤解をうむことも、すがるように飛びつくこともないのかな、と思います。

こういった民間療法で絶大な効果を手にした方もいらっしゃるでしょう。
同時に、時間を掛けすぎてしまったために取り返しのつかないことになってしまったかたもいらっしゃるでしょう。

抗がん剤を使用しても良い結果になら無かった方もいらっしゃるでしょう。
しかし抗がん剤を使用したおかげで克服した方もいらっしゃるのです。

物事には常に両極があります。どちらかだけを盲目的に信じてしまう時には注意が必要です。

僕達夫婦の方針としては、「1つの治療法を選択し(病院での抗がん剤・手術)、それをより良い状態で受けられるように身体と心がリラックスできるよう民間療法やボディーワークなどを上手に活用していく(あくまでも基軸となる治療の邪魔にならない範囲で)」、です。

医療の進歩は日々凄まじい速度で起こっています。今は治療法が確立されていなかったとしても数年後には確立されている可能性だってあるわけです、妻が抱えるぷるっぽんのように。だから医療機関での受診及び、意見は大切に聞いておいて欲しいなと思います。

上手にぷるっぽんとサヨナラをするために。


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それではまた

森部高史


ABOUT ME
森部高史
株式会社Pono Life代表取締役。Kukua Body主宰。アメリカ在住時でATCとしてトップレベルアスリートのケアにあたる。数少ないロルフィング®の資格を持ち、クライアントの身体と心のバランスを整え人生に寄り添い、「先生」と呼ばれる治療家やセラピストを指導する立場にもある。その人柄と結果を導くセッションと講座には全国から参加する人が後を絶たない。現在は自分の知識や経験をオンライン化していく方法を個人事業主や小規模法人経営者に伝えている